暴力沙汰を嫌う平和な町でダイナーを営むトム・ストールは、愛する妻と子供2人を家族に持つ、温和で良識的な人物。
ある日、店に押し入った強盗達を鮮やかな身のこなしで殺してしまったトムは、一躍町のヒーローとなる。
その出来事があらゆるメディアで報道されるようになり、家族や町の住人から尊敬の眼差しで見られ、お陰で店も繁盛するのだけど、当の本人はさっさとヒーローブームが過ぎ去って欲しいと願うばかり。
それもその筈、彼は自分の顔が広まってしまうことに、ある大きな懸念を抱いていたのだ。
そして後日、片目を抉られた男が店に訪れ「久しぶりだな、ジョーイ」とトムに親しげに語りかけた時、彼の懸念は現実のものとなり、忌まわしい過去が家族を侵食し始めていく。
ズバリそのものな題名のお陰で、エグい物が苦手な私はビクビクしてたんですが、観てみると予想外にバイオレンス描写は控えめで、そんなに痛そうな場面は出てこないし、笑えるシーンもいくつかあったので、力まずに観ることができました。
俳優さん達の演技は、大人から子供までみーんな真に迫っていて、こっちまで息を呑んでしまうこともしばしばでした。
特に、台詞がないシーンでの表情の演技は晴らしいです。
窮地を救ってくれた息子にゆっくり近づくヴィゴ・モーテンセンの表情なんて、本気で「怖〜」と思ってしまうほど。
お話としては「許されざる者」に通じるものがあるかな。
違うところは、トムが妻に自分の素性をずっと誤魔化していたことと、トムのある因子が子供にも受け継がれてるのが示唆されてること。
この二つをどう受け留めるかによって、ラストの印象が変わってくると思います。
個々の解釈に任せたラストは、本当に巧い終わり方をしてるんですよ。
一応、結末はハッキリと形にして見せてるんだけど、でもハッピーエンドを望む人も、バッドエンドを予想する人も、自信を持って「これだ!」と断言できる根拠は掴めないんじゃないかと思う。
それくらい曖昧で、かつ意味深です。
観る者によって解釈の分かれるこの映画は、とても面白く、そして深い。
オススメです。
ちなみに、エディの「私達、10代の頃に知り合っていれば良かったわね」のエピソードは笑えました。そうくるか!って感じで。(笑)
ここからはネタばれ感想。
徹底して暴力を好まない(あった場合は法的手段)平和な町に染まったエディと子供達は、トムの血生臭い過去にはアレルギー反応を起こしちゃうんでしょうねえ。
今回の家族の確執は、まさにこの町の気質によるところが大きいのかも。
トムもそれが分かってたから、自分の素性がバレることに怯えてたんだろうな。
トムの何もかもが剥き出しになってしまったラストは、とても痛々しい。
フィラデルフィアではジョーイとして無敵モードで暴れまくってたのに、その後は身を小さくして家族の住む家にコソコソと帰って来ちゃうんだもん。
どんなに拒絶されようとも家族の元に帰りたかったんだなとか…家族をどうしても失いたくないんだなあってのが、痛いほど伝わってくる。
そこには「パパは本当は凄い奴なんだけど、あえてそれを隠して普通の人に戻るんだぞ〜」なんていうカタルシスは存在しない。
食卓に流れる冷たくて重苦しい雰囲気にただひたすら怯えて、ずっと俯きながらも家族の輪に入れるかどうか部屋の外からチラチラ窺ってるトムの姿は、本当に気の毒。
だからこそ、サラが食器を並べてくれて、ジャックが食べ物をそっと寄せてくれた時は、ホッとします。
元マフィアだろうが元殺し屋だろうが、やっぱり子供達にとってトムは「父親」なんだというのが窺えて。
エディの表情は最後まで厳しいものではありましたが、子供二人がトムを父親として受け入れた以上、彼女もどんな気持ちだろうと、ある程度は歩み寄るんじゃないかなと、かすかな希望を抱きました。
でもその代わり、これからのストール一家は、どこかよそよそしい感じになっちゃうのかもな。
トムの犯した過去の罪を考えれば仕方ないんじゃないかと思うけど。
今回の事件は、過去の償いも清算もしないまま20年も逃げ続けてきたツケで報いを受けたようなもんだし、それを考えれば子供達が迎えてくれただけでも充分幸せなことだろうから。
ラストではありのままの姿で家族の食卓に着いたトム=ジョーイ。
本当に「家族の絆」を試されるのは、これから。
頑張れ、父ちゃん。