こつぶがゴロゴロ。

主にネタばれ感想を呟いてます。

硫黄島からの手紙

ネタばれ感想です。

 戦争を扱った作品にしては、珍しく程よい「軽さ」でした。

「軽い」といってもノリが軽いとか薄っぺらだとかいう意味じゃなくて。

観客側に登場人物の機敏を自由に解釈させるために中身を空洞化させて、その代わり己の主張は物語の外殻にしっかりと組み込んでる、ということです。(分かりにくい例えだ)

過剰な演出や寄り道がほとんど無い感じで、観る者の感情を無駄に、そして強引に揺さぶることをしないんですよね。

だから、重い話であるはずなのに観てて疲れない。

けど、一日中この映画について物思いに耽ってしまう。

クリント・イーストウッド監督の映画って、いつもそういった不思議な包容力を持ってる気がします。

 時々台詞が聞き取りにくいのが残念な点ではあるんだけど、役者さんたちの演技はみんな素朴な雰囲気があって、それが映画にリアリティを加えてたんじゃないかと思います。

特に西郷役の二宮和也さんは、「ある日、いきなり軍隊に放り込まれてしまった一般人」という凡庸な雰囲気が出てて、かなり良い感じでした。

ラストに向かうにつれ、あの軽薄な凡庸さがストーリー展開に劇的な効果をもたらしていくんですよね。

栗林中将やバロン西に関しては、アメリカ滞在の経験があるらしいので自決自体を否定するのかと思ってたんだけど、予想外だったな。

「失敗したから責任を取って自決する」のではなく、「失敗したからこそ、責任として出来ることを全部やり尽くした後に自決」したのが印象的。

そんな強靭な意志の持ち主である彼らなのに、子供達に向けた絵手紙や馬に向ける愛情は本当に牧歌的で…ああ、切ない。

 清水と伊藤中尉は哀しいというか気の毒だったなあ、己の信ずる道を選んで行動した結果があれなんだもの。

彼らの場合、現代の私達と通ずるような脆さと滑稽さを持ってるから、余計に感情移入しちゃうんだよね。

 それから、兵士達が一心不乱に「天皇陛下万歳」をやってたシーンは、なんか分かる気がする。

あの極限状態で死の恐怖や理不尽さから逃れるためには、ああやって精神を鼓舞するしかなかったのかも。

 とまあ、ひとつひとつ挙げていけばキリが無いほど色んなことを感じたんですが、特に印象的だったのは、この映画で初めて日本の「敗戦」の哀しさが理解できたということです。

「日本が負けた」なんて分かってたつもりだったのに、分かってなかった。

灯台下暗しって感じで、少し驚いてしまいました。

 栗林中将の「ここはまだ日本か?」という台詞とラストの海岸。

アメリカ軍が来る前の硫黄島の海岸は、とても殺風景で閑散としてたけど、夕日に照らされた栗林中将と砂浜はとても綺麗で、いかにも「日本」らしい情緒さが感じられた。

なのにラストでの海岸は、不安も寂しさも覚えることはない賑やかな場所へと変貌を遂げていた。

食料も薬も豊富だし安堵感を覚えるんだけど、その賑やかさは「アメリカ」そのものなんですよね。

安息地となってしまった砂浜に、もう「日本」らしさは微塵も感じられない。

このやるせなさこそが、栗林中将や西郷、そしてたくさんの日本兵が抱いた感慨なんだろうなと思いました。

でも夕日は「日本」だった時と変わらず、美しかった。

そこに僅かばかりの希望がある…と、私は考えたんですけど、西郷の目にはどう映ったんでしょうね。

 こんな感じで、重い気持ちになることなく色々と想いを馳せられる、日本の兵士達の物語。

この映画って、やっぱりアメリカ人である監督が日本側の気持ちを汲み取って撮ったからこそ、価値のあるものなんだと思います。

日本の監督だと自制心が働いて、あそこまでストレートに描くのは難しそうだし。(偏見)

 家族や国を守るために亡くなった人達の想いが、全て後世に伝わると良いよね。

もうひとつの「父親達の星条旗」も、DVDになったら即観るぞ!(気が付いたら映画公開が終わってた…)