とことん哀しい映画です、これ。
だって主要人物達が、最後まで空虚な心のまんまなんだもの。
父バックの歪んだ強者崇拝と露骨な人種差別を目の当たりにしても、反抗せず彼の言うとおりに行動してきたハンク。
危険な思想を剥き出しにする祖父と、それに素直に従う父ハンクを、ずっと苦々しい思いで見つめてきたソニー。
11年間、死刑囚の夫ボブの面会と子供の面倒を独りで看てきて、生活費を工面するのに疲れていたレティシア。
そんな彼らの漠然とした心の影は、ボブの死刑執行によって具現化してしまいます。
ボブの死によってソニーの胸が紅く染まり、ソニーの死によってハンクの今までの人生観に終止符が打たれ、そしてボブの残した一人息子の死によって、レティシアはハンクと哀しい心を慰め合い…。
例えハンクが相手の肌の色に安らぎを求めていたとしても、レティシアが相手の経済力に安らぎを求めたとしても、この二人の打算的な恋を批判することは、私にはできません。
だって仕方がないですもん。
彼らは、相手を通して子供を想い続けてるんだから。
ソニーと黒人の子達が仲良くしてるのを目にしてなければ、きっとハンクはレティシアに惹かれることはなかっただろうし、息子の数々の遺品を残せる場所があるのなら、きっとレティシアはハンクの家には行かなかっただろうし…。
ラストでは解釈の分かれそうな終わり方をしてましたけど、どうかこの二人が真に愛し合えるようになって欲しいです。
でも、原題の「Monster's Ball」がラストを不安にさせるんだよな…。
あー、そういえば。
レティシアが子を失った悲しみから徐々に立ち直る描写がなくて、少々拍子抜けしたのですが、彼女が酔いながら子供の思い出を語るシーンでそれを大いにカバーしてました。
というかこの場面に限らず、ハンクやレティシアが子供のことに触れる場面は、どれも胸が締め付けられます。
やっぱりそれだけ彼らの演技が凄かったってことなんでしょうね。
あれならハル・ベリーがアカデミー主演女優賞を獲るのも納得だよ。
それにしても、バックのあの性格は本当にシャレにならん。
バックが強い心を妻と子供と孫に強要していたのも、孫の自殺に心を動かさなかったのも、彼自身が強いからではなく、単に人を思いやる気持ちがなかっただけのことなのに、
バックはそれを「強さ」だと信じ込んでるから、怖い。